健康

鍼灸の国内外の事情と澤村投手のニュースを考察

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たぬきんぐですじゃ。

 

巨人の澤村という投手が鍼灸で麻痺が起こったというニュースが話題になっております。

このニュースを題材に、日本と海外の鍼灸事情を考察していきます。

5000字ほどの固い内容の長文になってしまいました。

たぬきんぐでは緩い内容の記事もたくさんあります!

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澤村投手のニュースについてまとめる

澤村拓一投手というのは読売ジャイアンツ(巨人)の主力投手で、2016年まで抑えの切り札として活躍していました。

2017年度はシーズン序盤から一軍には出られず。

今年の巨人の苦戦の原因の一つが澤村投手の離脱によるものであることは確実です。

 

いくつかの報道がありますが、要点をまとめると

1.澤村投手が登板しないのは故障によるもの

2.その故障は長胸神経麻痺によるもの

3.長胸神経麻痺の原因はトレーナーによる鍼治療での神経損傷が原因と医師が診断

4.球団とトレーナーは澤村投手に謝罪したと報道される

5.診断について疑問点があると鍼灸関係の団体が球団に質問した

 

という流れのようです。

掲示板やSNSでも話題になっているようです。たぬきはあまり見ていませんが、鍼灸関係の人は疑問を呈している人が多いようで、元プロ野球選手が医師の診断に疑問を呈する内容の投稿をしていたのもニュースになっていました。

鍼灸のメリットについて理解しておく

日本の方はヨーロッパ重視アジア軽視の傾向が強いことから、東洋医学に対して厳しい目を向ける人が多い印象があります。

しかし実際には鍼灸の効果についてはエビデンスも存在し、西洋医学から一定の評価を得ているというのが正しい理解になります。

疼痛に対する効果については一流医学雑誌であるブリティッシュ・メディカル・ジャーナルにもレビュー記事が存在します。(MADSEN, Matias Vested; GØTZSCHE, Peter C.; HRÓBJARTSSON, Asbjørn. Acupuncture treatment for pain: systematic review of randomised clinical trials with acupuncture, placebo acupuncture, and no acupuncture groups. Bmj, 2009, 338: a3115.)

 

他にも

乳がん患者の火照りなどの症状を軽減したとする研究(LESI, Grazia, et al. Acupuncture as an integrative approach for the treatment of hot flashes in women with breast cancer: a prospective multicenter randomized controlled trial (AcCliMaT). Journal of Clinical Oncology, 2016, 34.15: 1795-1802.)

抗がん剤による嘔吐を減らしたとする研究(RITHIRANGSRIROJ, Kulthida; MANCHANA, Tarinee; AKKAYAGORN, Lanchasak. Efficacy of acupuncture in prevention of delayed chemotherapy induced nausea and vomiting in gynecologic cancer patients. Gynecologic oncology, 2015, 136.1: 82-86.)

などなど。

痛みや吐き気など不快な症状に対して鍼が効果があったとする研究はたくさんあります。

私は鍼治療の専門家ではないですが、軽く論文を探しただけでも鍼治療に関する論文は海外から多く出ています。

意外なことに欧米では鍼治療はかなり評価されていると言えます

まだまだ発展段階の分野ですが、決して東洋の怪しげな土着医療ではないのです。

ドイツの鍼灸事情を見てみる

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ドイツで鍼治療をやってるなんて、信じられない方も多いんじゃないでしょうか。

実際にはドイツは鍼治療に積極的な国の一つです。

ドイツでは鍼治療をできるのは医師とハイルプラクティカーと呼ばれる人たちに限られます。

 

ハイルプラクティカーというのはドイツ特有の資格です。西洋医学的な知識を持ちつつ代替医療(ハーブ療法や東洋医学など)を使った治療をする人のための国家資格とのことです。

ハイルプラクティカーは合格率の非常に低い難関資格です。

 

正確な人数はわかりませんが、医師で鍼治療を行っているのが1割以上(2~3万人)と考えられているそうです。ハイルプラクティカー少ないらしくドイツでの鍼治療のメインは医師だそうです。

もちろん日本でも医師は鍼治療をできます。

有効性があるなら使えばいいのですが、

・保険適応がない

・東洋医学との共同事業が行われにくい土壌

等がネックになっているのだと思います。日本の病院での鍼治療は西洋に比べて遅れているという皮肉な結果になっています。

 

ドイツでは鍼治療の大きな研究も行われており、(WITT, Claudia M., et al. Safety of acupuncture: results of a prospective observational study with 229,230 patients and introduction of a medical information and consent form. Complementary Medicine Research, 2009, 16.2: 91-97.)

なんと229230人!もの鍼治療の患者を調べたデータが2009年に発表されています。

ドイツでの研究結果からみる有害事象の出現率

全てを知りたい方は原文を読んでもらうとして、ここでは大事なところを説明します。

まず、研究は 229230人を対象としたデータです。

 

悪影響が出たのは24377人。約10.6%です。

このうち「ちょっと出血しただけ」「あざになっちゃった」程度の軽いものが多いです。

しかし治療を要する程度だったものも少なくはありません。

一方重篤なものでは気胸が2例(0.001%)等。

心タンポナーデや脊髄損傷などの予後の厳しい合併症もほかの研究で報告はあるそうですが、この研究では出なかったということです。

 

神経損傷は治療を要しない軽度なものを含めて601人(0.26%)、うち治療を要したものが251人(0.11%)に出たそうです。

この論文を正しいとするなら澤村投手はこの0.11%に入ってしまったと考えられます。

他に血種や頭痛、筋肉痛などの合併症も出ていますが、今回は割愛します。

有害事象についての全日本鍼灸学会の意見を見る

質問.鍼灸による有害事象はどのくらいの頻度で生じますか?
回答.ドイツで行なわれた大規模な前向き調査(文献1,2,3)から、標準的な鍼灸治療によって深刻な有害事象が発生する頻度は非常に低いということが証明されています。
また、特記すべき有害事象の発生頻度は、日本式鍼灸治療で0.12%(文献4)、イギリス現代医学系鍼灸治療で0.14%(文献5)、イギリス中医学系鍼灸治療で0.13%(文献6)と報告されています。

公益社団法人 全日本鍼灸学会 安全性委員会 鍼灸の安全対策 から引用

別のところでは神経障害が発生した例も説明しています。学会も神経障害が出ることを否定しているわけではないようです。

 

さて、上の引用文についての個人的な意見です。

文献1にあたるのが先ほど説明したドイツの論文になります。

この文献1と同様に引用されている文献4なのですが、

文献1は22万人以上を分析した前向き研究 文献4は原著に対するletter(反論)、意見にすぎません。

研究の規模は圧倒的に違います。

研究をやったことがない人なら、大規模研究でも0.12%しか出なかったと勘違いしやすい文章構成になっています。ちょっと不親切だと思います。

そもそも針で神経を切るのは無理という意見を考察する

データ上は神経障害がたまにあるよとドイツの人たちが言っているので、それを信用するべきだと思います。

元プロ野球選手が「ティッシュでしなるような針だから神経を傷つけるわけない」というような謎理論を文章にしていましたが、しなることと切れ味のあるなしは別の話です。

というか皮膚が切れるんだから神経も切れるに決まってます

「私の皮膚はティッシュより柔らかい」とか反論されるとつらいですが、普通の皮膚はある程度硬くて切りにくくなってます。

信じられない人はプラスチックナイフで鶏肉の皮を切ってみてください。

 

ちなみに麻酔科領域の2015年の発表で、先が丸い針のほうが鋭い針より神経が傷つきにくいが、いったん傷ついたら重症化しやすいという報告もあるようです。(参考:旭川医科大学 麻酔・蘇生学講座ホームページ)

そもそも”施術ミス”なのか

例えば乳がんの手術の後に腕が腫れるとか、開腹手術の後におなかの傷がチクチクするとか。

抗生剤がたまたま合わなくて蕁麻疹が出るとか。

医療ミスと判断する人もいるのでしょうが、「必要な治療に関連して起きた合併症」と「投薬ミスや患者取違いなどの明らかな間違い」は別物と考えます。

 

私は澤村投手がどんな治療を受けてどんな合併症が出たのか詳細は知りません。

なのでここでは例を出します。

 

50%の人が痛みが取れるけど

0.1%の人がしびれが出る

という薬があったとします。

 

痛みが取れる人がたくさんいる反面、運悪くしびれが出る人も出ます。

じゃあ、しびれが出たら医療ミス(投薬ミス)になるのでしょうか?

この薬は販売中止にするべきでしょうか。

私は違うと思います。

 

そもそも今回は細かい動作の必要なアスリートだから問題になりましたが、一般人なら「少し腕が上がりにくいかな」程度で短期間の安静で改善していた可能性も十分あると思います。

サラリーマンの投球コントロールが悪くなっても何の問題にもなりません。澤村投手だったから大きな問題になった可能性もあります。

 

もちろん「しびれが出る可能性が0.1%程度」などの説明はしておくべきです。

日本の鍼を考えてみる

文字数が増えすぎたので考察を深めるのは別の記事にしようと思います。ここでは簡単に。

 

西洋の鍼は医師がメインであるため、おそらく病院で複数の技術者による指導や合併症に対する意見交換などがスムーズにできると考えられます。

 

それに対して日本では医師がほとんど鍼を使わないので、鍼灸師がメインになります。

鍼で合併症が起きた場合、患者は病院に行くケースが多いため合併症が起こったことがフィードバックされにくい土壌があります。

また、保険適応外のために不利益を被っています。

本来なら鍼灸が最も(?)力を発揮できる

・がん患者の抗がん剤の副作用対策

・緩和医療における症状軽減

・術後疼痛管理

などなど。病院内でのイベントに対し、海外では鍼による効果が実証されています。

しかし国内では鍼灸師が病院にほとんど入ることがないのが現状です。

また、歯科医院での治療で感染症にかかるリスクの記事でも書きましたが、感染対策は結構難しい問題です。病院で働けないと感染対策の理解で不利だと思います。この辺りは別の記事にいずれ書こうかなと思います。

たぬきの考えとまとめ

鍼灸による治療はまじないなどではありません。

個人的には日本の鍼灸師がよく使う「気」などの言葉がまじないっぽさを出してるような気がします。

しかし海外でも鍼が行われ成果を上げている事実は知っておいて損はありません。

 

澤村投手はもちろんかわいそうですが、どんな治療も合併症はゼロにできません。

むしろメリットとデメリットを明確に説明していくことが鍼灸の発展につながると思います。